LED-UV印刷化への安全・確実な移行の秘訣

印刷界:2018.1月号・インタビュー

四日市印刷工業様(三重県四日市市)

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LED-UV乾燥システム「XPシリーズ」導入  ──  切り替え初日から本稼働開始

総合パッケージ制作会社である四日市印刷工業㈱(本社・三重県四日市市、山口史高社長)は、印刷不良・障害を低減するため、20179月にアメリカAMS社のLED-UV乾燥システム「XPシリーズ」(XP7)を既設の油性印刷機に後付けした。事前の計画的な取り組みや徹底したオペレーター教育などによって切り替え当日に本稼働を開始、その後も問題なく運用を続けており、当初の目標を達成している。山口社長に、LED-UV印刷化の狙いや安全・確実な切り替えの秘訣、今後の展開などを聞いた。

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山口 史高 社長

LED-UV印刷化の第一目的は印刷不良・障害の低減

──パッケージ印刷業界ではUV印刷が主流ですが、LED-UV印刷化に踏み切った理由は何ですか?

山口社長

当社はこれまで油性インキで印刷してきましたが、油性印刷ではどうしてもパウダーによる印刷品質の劣化やボタ落ちによる印刷不良、後加工への弊害などの印刷不良・障害が避けられません。印刷機に品質検査カメラを搭載していますが、特に品質の厳しい商品は納品前に目視の全数再検査も行い、不良品を出さないようにしてきました。しかし、パウダーという大元をなくさない限り、不良品は出続け、抜本的な解決策とはなりません。

こうしたことから2016年に社長に就任した際、2年以内にUV印刷化すると宣言しました。UV印刷化の目的は一般的には短納期対応や稼働率アップが多いようですが、当社は印刷不良・障害の低減が第一の目的でした。

当時はUV印刷にするのかLED-UV印刷にするのか、あるいは新台を導入するのか後付けシステムにするのか、全く決めていませんでした。

しかし、新台については、実際にUV印刷機を運用した実績がないことから、果たして上手く運用できるか不安がありました。また、機械自体が画期的に進歩していれば導入したかもしれませんが、各メーカーの印刷機とも基本的に従来と大きくは変わっていません。UV化以外に大きなメリットがあるとは考えられず、まずは技術的にやれるかどうか試すつもりで、既設の印刷機に設置できるLED-UV乾燥システムを導入しすることにしました。

なぜLED-UVシステムに決めたのかというと、UVシステムに比べて消費電力が極めて少なく、オゾンを排気するダクトなど付帯設備が不要で、さらに熱による原反へのダメージもないことです。省電力、環境対応は時代の流れです。健康に配慮した作業職場という面でも絶対にLED-UVだと思いました。

最初のLED-UV印刷機が発表された当初は、特色の再現性も、金/銀/ニスも駄目、板紙には刷れないなど問題が多く、一時はパッケージ印刷に採用するには課題が多すぎました。

しかしその後、LED-UVシステムは急速な技術進歩を遂げ、インキについても各インキメーカーが高性能のLED-UV用のインキを開発するなど、パッケージでも十分使える環境が整ってきました。
UVシステムと比較して、LED-UVシステムの唯一のネックは耐摩耗性と言われていますが、表面加工をしないパッケージを収める案件はほとんどなく、問題はないと判断しました。

「顧客に決して迷惑をかけない」ことを主眼にシステム選定

──AMS社の「XP-7」を選択した理由は何ですか

山口社長

導入するに当たり3社の製品を検討しました。1社は印刷品質を重視するあまり付帯設備が多く、コスト高な仕様になっていました。他の2社はそこまで設備をしなくても、板紙でも乾きにくいものでもクリアできると言い切りましたので、まず2社に絞りました。

実際にリッチブラックなど濃度の濃いものの乾燥性や、特色インキの再現性などを検証するため、それぞれのシステムを導入している名古屋と東京の印刷工場で、全く同じ条件でテストをやらせてもらいました。結果はどちらも問題はなく、LED-UV印刷でやれるという確証が得られました。

2つのシステムとも結果は満足できるものでしたが、「XP-7」を選んだのは実績です。当社が使っている三菱の印刷機と同じ印刷機に設置しており、提案も実績に裏付けられた具体的なもので、安心できました。

いちばん重要なことは、安全、確実に移行できるかどうかです。納期が遅れたり、以前と比べて色がズレたり印刷の仕上がりが違ったりすればお客さまに迷惑をかけることになります。これだけは絶対に避けなければなりません。この点においてAMS社製品をサポートしているASIAMIX㈱は信頼できました。

スムーズな移行を導いた計画的な準備作業とオペレーター教育

山口社長

ASIAMIXでは、システムを設置するまでに必要な作業手順をきめ細かにまとめた導入プログラムとオペレーターに対する教育プログラムを提出してくれました。これによって計画的に準備が進められ、オペレーターも事前にLED-UV印刷に必要な知識を全て修得することができました。

後付けでたいへんなのはローラーやブランケットを替えないといけないことです。聞いたところではほとんどの工場では切り替え当日に大慌てでローラーなどをまとめて替えているようですが、この方法では作業がたいへんで、しかも印刷機が長時間止まることになります。

当社ではASIAMIXと作成した導入プログラムに基づいて、現場のスタッフが作業計画を立て、数カ月前から1ユニットずつローラーを交換していきました。今のローラーはUV用でも普通に油性を刷れますから、通常のローテーションの中でローラーを計画的に替えていき、事前に全て交換し終わっていました。ですから切り替え当日はローラーに着いた油性インキを洗浄するだけでLED-UV印刷を開始することができました。しかも、微調整しながら何回か試運転して、これならいけると本番の仕事も無事に終えることができました。

何事もなく、いきなり本稼働ができたのは、製造スタッフがメーカー選定の事前調査、オペレーターの教育、インキメーカーなどとの綿密な打ち合わせなど、ASIAMIXとの共同の移行計画をしっかり実現化してくれたからです。

ASIAMIXの担当者は本当によくやってくれました。設備を納入・設置したらそこで終わりというメーカーディーラーも少なくありませんが、設置後もしばらくはつきっきりで立ち会ってくれました。

またオペレーターとしての技術も持っているので、例えば、H液やローラーに関する提案やアドバイスにも説得力があり、オペレーターたちも以前から頼りにしていました。今回2社が提案したシステムは性能も価格もほぼ一線で並んでいましたが、現場サイドではASIAMIXを推す意見が圧倒的でした。導入した後のことを考えたらASIAMIXがいい、安心して運用できるからというのが理由でした。

結果的に、何のトラブルもなく、品質のズレもなく、お客さまに迷惑をかけることもありませんでした。改めて前準備の必要性、大切さを実感しています。

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導入印刷機(三菱DAIYA 3H)

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XP-7のモジュール

──LED-UV印刷に切り替えて約2カ月経ちましたがどうですか

山口社長

偶然でしょうが、LED-UVに切り替えてから最初の1カ月間に、それぞれ特徴や仕様の違うものや、金など難しい仕事が集中しました。用紙も上質、コート紙、厚紙など一通り経験できました。最初の1カ月間でほぼハードルは越えたという感じで、以後は順調に稼働しています。

その中で唯一問題になったのがニスです。油性印刷だと印刷してからニスを塗ると色が変わります。とくにピース紺などは変化が大きいので逆計算して印刷をします。LED-UVインキについては、メーカーの話では、ニスをかけても色の変化はほとんどないということでしたが、濃紺系は色が全く変わってしまいました。これでは製品としては出せないので、ターゲットに持っていけるようにデータを修正して、改めて印刷しました。

ニス以外では問題になるようなことはほとんどありませんでした。折り加工のオペレーターが今までと少し違う、感触が少し変わったと言っていましたが、それはパウダーがなくなり紙のすべりが悪くなったこととインキの膜厚が変わったことが原因で、設定を微調整することで解決しました。当社は精度を求められる仕事が多いので、普通に折る仕事だったらオペレーターも気にもかけなかったと思います。

打抜き加工などの後加工をお願いしている協力工場でも、やりづらくなったという声は一切ありません。むしろやりやすくなったというほうが圧倒的です。

ドライダウンがなくなりオペレーターの負担が軽減

──実際に導入して、どのような効果がありましたか

山口社長

まず印刷不良・障害が減ったことです。パウダーレスによってパウダーにまつわる問題がなくなりました。ヒッキー系の点や黒点も本当に少なくなりました。ドライダウンが発生しなくなったことも大きな効果ですね。ターゲットの色照合がしやすくなり、オペレーターの負担が本当に減りました。

光沢加工、プレスコーティングなど表面加工についても、油性印刷では濃い色だとパウダーの影響で光沢感が曇ることがありますが、LED-UV印刷ではそういう現象は全く起きません。

ものづくりという点において、新しい設備が入ったことで現場の士気が上がり、皆生き生きとしているように感じます。これまでできなかったことができるようになり楽しんでやっています。雰囲気が明るくなったような気がします。

──油性印刷とはどのような使い分けをしていますか

山口社長

印刷不良やリスクを考えると、できるだけLED-UV印刷でやりたいと思っていますが、ロットがとにかく大きくて品質要求がそれほど高くないものに関しては油性印刷でやっています。まずはコスト優先の仕事でまとめています。

悩んでいるのは和紙です。和紙ももちろんLED-UV印刷できますが、紙粉が多く、後の印刷に影響が出る恐れがあります。和紙印刷には特有のノウハウがあり独特の風合いを醸し出していますが、乾燥方式が変わることで風合いも多少変わります。もう少し研究してからどうするか決めたいと考えています。

剝離系ニス、滑り止めニス、超光沢などの機能性ニスについては、油性印刷とLED-UV印刷では違いが出ますので、お客さまと話し合いながらLED-UV印刷に移行していきたいと考えています。

可能性が広がるLED-UV印刷。LED-UVならではの商品開発に挑戦

──今後はどのような展開を考えていますか

山口社長

印刷だけで稼ぐのは難しくなってきています。お客さまに喜んでいただける商品、お客さまの利益に貢献できる商品を作れるかどうかが、これからは問われます。

LED-UV印刷は新しい営業ツールになると確信しています。特殊な原反などにもチャレンジし、LED-UV印刷ならではのスピード感、速乾特性を生かした提案を増やしていきます。いろいろなものに刷れますので、今まで手を出さなかった領域にも進出していく方針です。

油性印刷から新しいモノを生み出すのは中々難しいですが、LED-UV印刷はこれからの技術です。例えば、LED-UVランプは現在は単波長ですが、数種類の波長を組み合わせて同時に照射するランプもすでに開発されています。これによって数種類のインキやニスを同時に印刷できるようになります。また、インキメーカーやニスメーカーも開発スピードがあがり、これまでにない印刷表現もできるようになるのではと期待しています。LED-UV印刷は可能性を拡げるツールであり積極的に取り組んでいくつもりです。

【四日市印刷工業の概要】

和菓子や洋菓子など、食品パッケージの企画・印刷・加工を手がける三重県トップのパッケージ制作専門会社である。1887年の創業で昨年創業140周年を迎えた。食品パッケージ制作会社として、短納期対応や納期厳守はもちろん、とくに毛髪など異物混入の防止策を徹底、顧客から高い信頼を得ている。
https://yp-pack.jp/

【XPシリーズ】

AMS社が2008年に販売開始したヒット製品で、後付け装置として世界ナンバー1の実績を誇っている。独自開発の「PEAK OPTICS(光学式システム)」により、高強度の平行ビームを照射。最大150㍉離れた距離でも、照射強度を大幅に落とすことなく、広い範囲で十分な硬化出力を発揮する。このため、用紙のバタつきなどで照射距離が乱れがちな高速運転でも乾燥不足のトラブルを解消している。モジュールは任意の長さでコンパクトに製造できる。これまで小森、ハイデルベルグ、リョービMHI、KBA、マンローランド、アキヤマ、桜井など、各メーカーの印刷機に導入実績がある。