印刷界:2016.6月号・導入ルポ掲載
興和印刷様(名古屋市)
UV印刷は、裏移りの心配がない、印刷素材を選ばない、素早く後工程に入れる、インキ皮膜の摩擦堅牢度が高い、スプレーパウダーを必要としないなど数々のメリットがあり、大手・中堅印刷会社ではLED-UV乾燥システムやH-UVシステムを搭載した印刷機を導入する事例が増えている。しかし、小企業にとっては、印刷需要が減少する中で多額の設備投資をするのは負担・リスクが大きく、導入するのは容易ではない。
興和印刷㈱(名古屋市西区新福寺町2-11、市川真司社長)は、アメリカ・AMS(Air Motion Systems)社の後付け可能な次世代型LED-UV乾燥システム「XP シリーズ(XP-7)」をASIAMIX㈱から導入し、低コストでUV印刷を実現した。「XP-7」は既存の菊全5色印刷機に設置、ASIAMIX㈱との二人三脚により、設置からトレーニングまでわずか3日で本稼働に入り、数カ月で安定した生産体制を構築した。パウダーに起因する様々なトラブルの解消はもとより、速乾印刷による短納期対応で受注拡大と新規顧客の獲得に成果を上げている。
市川真司社長
品質へのこだわりと二十四時間対応で取引先から頼りにされる
興和印刷は1975年創業の、100%下請けに徹した印刷会社である。「インキでも湿し水でもブランケットでもローラーでも、新しい材料や資材が出るとすぐに取り寄せてテストをする」(市川社長)という品質へのこだわりと、〝24時間眠らない会社〟をモットーに掲げた柔軟対応で取引先から高い支持を得ている。また、名古屋市内にあって一度に数十万枚の受け入れも可能な紙置スペースを確保しており、大ロットの仕事依頼が多いのも同社の特徴である。
現在、小森コーポレーションの菊全印刷機3台を中心に、CTPシステムなどを設備している。従業員数は12人。
「パウダーがなくなれば機械周辺がきれいになるし、印刷品質の劣化やボタ落ちによる印刷不良、パウダーによる後加工への弊害も解消される。パウダーレスは夢だった」という市川社長は、「XP-7」を導入した経緯を次のように語る。
「以前から速乾・パウダーレスが実現できるUV印刷、とくに従来の水銀・メタルハライドランプを使用するUVシステムに比べて消費電力が少ない、オゾンを排気するためのダクトが不要、熱によるダメージが少ないなどメリットが多いLED -UV印刷機に注目し導入を考えていた。一方で、扱い慣れた印刷機を可能な限り長く使いたい気持ちもあり、両方の間で揺れていた。しかし、速乾印刷の問い合わせや指定が増えてきており、また、他社が次々にUVシステムを導入していることから、このままでは既存の仕事も取られてしまうと考え、「XP-7」の導入を決めた」
長距離でも(最大150mm)広い範囲で十分な硬化出力を発揮
デリバリー部に取り付けられたLED-UV乾燥システム「XP-7」
「XPシリーズ」を選択したのは、性能と実績を他社と比較検討した結果だ。
「XPシリーズ」は、北米市場においてUV装置のマーケットリーダーであるAMS社が2008年に販売開始したヒット製品で、後付け装置として世界ナンバー1の実績を誇っている。独自開発の「PEAKOPTICS(ピークオプティクス:光学式システム)」により、高強度の平行ビームを照射。最大150㍉離れた距離でも、照射強度を大幅に落とすことなく、広い範囲で十分な硬化出力を発揮する。このため、用紙のバタつきなどで照射距離が乱れがちな高速運転でも乾燥不足のトラブルを解消している。
モジュールは任意の長さでコンパクトに製造できる。95x80mmの断面に収まる小型のモジュールは、新台はもちろん、既成の印刷機にも後付が容易で、これまで小森、ハイデルベルグ、リョービMHI、KBA、マンローランド、アキヤマ、桜井など、各メーカーの印刷機に導入実績がある。
「光源の寿命が他社と比べて長いことは選択理由の1つだった」と市川社長が指摘するように、「XPシリーズ」は、劣化の元となる半導体結晶の不純物を最大限排除したチップダイオードを搭載、これにより業界最長の2万時間超えの長寿命を実現している。
また、「XPシリーズ」は、国内では簡単な手続きで税制優遇が受けられる「生産性向上設備投資促進税制」の先端設備に認定されており(A類型)、特別償却または税額控除が適用される。これも「XPシリーズ」の導入メリットになっている。
決め手となったのは、サポート体制である。「日本製品も検討したが、愛知にメンテナンスの拠点がなく、XPシリーズは外国製なのでやはりアフターフォローに不安があった。しかし、「XPシリーズ」を取り扱っているASIAMIXは県内(あま市)に中部支社を置いているので安心できた。何よりASIAMIXは「ロハスプリント」ブランドで多種多様な印刷資材を扱っているので、UV印刷に最適な資材を紹介してもらえるのは助かる。また、UV印刷に限らず、ASIAMIXは取引先が多いため担当者が現場のいろいろなトラブルやその解決法に関する情報に通じており、他社にない魅力だ」(市川社長)
ASIAMIXとの二人三脚で数カ月で安定した生産体制を構築
「XPシリーズ」を導入したのは昨年末で、菊全5色印刷機のデリバリー部分に設置した。はじめはいろいろとあったが、ASIAMIXのサポートもあり、大きな問題は起こらず、数カ月で軌道に乗った。「UV印刷は水幅が狭く刷れないなどの理由で1、2回やってやめたというような話も聞くが、元々水幅をきちんと制御していれば高感度になったからと言ってまったく難しいことはないと思う」と市川社長。現在は資材も固まり安定していると言う。
市川社長は「瞬間乾燥や色目など不安要素がない訳ではなかったが、実際に稼動してみて懸念は完全に払拭された。以前油性で印刷したリピートも色目はほとんど変わらず、違いが分からなかった。インキ代は約2倍だが、生産性の向上や効率化でカバーできている。よく使うシルバーは発色がいいし、金赤などは濃度が濃いので、油性に比べてインキを過剰に盛らなくても良い。消費電力もリングブロアーが要らなくなったため、以前とほとんど変わらない」と話す。 日々のメンテナンスについては、「グレーズが溜まるのでローラーのメンテナンスや水棒のきめ細かな調整が必要になるが、これは油性でも同じことで、回数が多くなっただけ。一方、今まではパウダーを除去するため仕事が終わると毎日エアーガンで掃除していたが、その作業がなくなりずいぶん楽になった」(オペレーター)。
さらなる受注拡大に向け材料・資材の研究を推進
「XPシリーズ」を導入した効果はすぐに現れた。「UV印刷」指定の受注が急増したのだ。油性印刷では苦労するMr・B、エアラスなどの特殊紙の印刷も普通の感覚で刷れ、「用紙・エアラス、部数・36万枚、色数・4× 4色」の仕事も難なくこなすことができたという。「夕方から刷り始め、翌朝には納品といった短納期の仕事や特殊紙の仕事が増え、乾燥には絶えず気を配っていた。段取りが悪いとトラブルの発生や納期遅れにつながる。UV印刷になって仕事の段取りが組みやすくなった。というより、乾燥するまで待つことがなくなり、順番にやっていけばいいという感じだ。これにより受注も取りやすくなった」と市川社長。
今後については「LED -UV印刷による速乾印刷ができるようになって仕事が増えているが、これを売りにさらなる受注拡大を図ってきたい。そのためにはさらに材料や資材を吟味する必要がある。各メーカーと協力し合いながら、紙の特性に合わせた商品を研究、選定していきたい」と意欲的だ。